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    SDI構築方針から一転
    IP化を選択した理由

    東海テレビ放送

東海テレビ放送は2023年2月27日、オールIP化したAスタジオサブの運用を開始。その約2週間後となる3月12日には「名古屋ウィメンズマラソン2023」の全国生放送を実施し、IP設備の円滑な運用を強く印象付けた。FNS系では初となるSMPTE ST2110規格準拠のスタジオサブは、どのような議論を経て導入されたのか。その経緯と今後の展開について、技術局映像制作部主査・渡部克弥氏と同映像制作部・金山龍平氏の2人の担当者と、ファーウェイ・ジャパンのメディア事業部部長でIPライブエバンジェリスト・池田俊樹氏に話し合ってもらった。(以下、敬称略)

左から東海テレビ放送技術局映像制作部・金山龍平氏、同映像制作部主査・渡部克弥氏、ファーウェイ・ジャパンのIPライブエバンジェリスト・池田俊樹氏

左から東海テレビ放送技術局映像制作部・金山龍平氏、同映像制作部主査・渡部克弥氏、
ファーウェイ・ジャパンのIPライブエバンジェリスト・池田俊樹氏

更新時期の1年延期でIP環境に変化

―― IP設備導入の経緯から聞かせてください。

東海TV・渡部 Aサブの更新稼働を2021年度内で予定していたので、丸1年遅れています。実はSDIベースでの更新方針でほぼ固めていたのですが、1年の遅れがIP設備導入へと大きく変えたのです。

―― 劇的です。IPへ方針が変わったのはなぜですか。

渡部 設備検討を開始した2020年当時、IPは事例の少なさや対応機器の状況などから不安があり、コスト面でも厳しいという判断でした。ところが、更新自体が遅れたことで、朋栄のIPマルチビューワなど機器類が明らかに充実し、付随するIP 対応機器などを含めたコストメリットでも天秤に乗せられる状況が十分に整ったことが大きなポイントでした。

―― コスト面で考えると、ランニングコストを含めIPに割高な印象があったと思うのですが、そこを越えてきた議論をお聞きしたい。

渡部 IP化のメリットを考えた場合、拡張性の高さは大きなポイントです。今後、Bスタジオサブや回線センターなどの連携を視野に入れると、リソースシェアなどの運用面で圧倒的にIP化のメリットが生まれます。また、同じく現場の運用面で、SDI設備で必要な大量のケーブルがたった2 本の光ケーブルで済むなど、数字上のコストでは計れないメリットがあると考えました。

―― 価格面で比較検討できるレベルになった、と判断されたことが大きかったのですか。

渡部 年間保守や初期コストなど単純に比較すれば、やはりIPの方がまだ割高です。ここに将来のBスタジオサブ更新、回線センターとの連携を加味した上で、その後の更新を考えた場合の拡張性などを考慮すると、十分俎上に乗ると判断できます。SDIでは機器更新に合わせて事実上の「全とっかえ」が必要ですが、IP設備なら部分的更新も可能ですし、加えて更新のために運用を止める期間が短くて済むことも強みです。

IPライブエバンジェリスト・池田 自分の担当する設備だけでなく、会社全体の設備更新計画と世の中の状況をしっかりと見極め、IP化のメリットを見いだしている。中長期で計画することで、将来の連携を含めてしっかり検討されていることがよくわかります。

IP化したAスタジオサブ

IP化したAスタジオサブ

IP由来のトラブルを最小限に抑える構成

―― IP化したAスタジオサブの特長を教えてください。

渡部 大きなテーマとして「使い勝手を変えない」ことが挙げられます。導入からわずか2週間後に開催された「ウィメンズマラソン」中継を問題なく実現できたのもそこが大きい。もう少し踏み込んで言うならば、IP由来のトラブルを最低限に抑えることを目的としてシステムを構築しています。スイッチャーをIP・SDIのハイブリッドとし、一部のカメラや VTR などの SDI信号はIPを通さず、スイッチャーに直接入力しています【図】。

【図】東海テレビ放送「Aスタジオサブ」システム概要

【図】東海テレビ放送「Aスタジオサブ」システム概要

―― 現場のオペレーターの反応はどうでしたか。

東海TV・金山 私たちは設備更新の役割だけに特化しておらず、現場も担当します。当然、現場で使いやすいことを念頭にシステムを構築していますし、渡部の言う「IP由来のトラブルを最低限に抑える」構成も、我々現場の人間であれば誰もが対応できるように、という狙いが大きいです。うちで中継を担当しているスタッフであれば、社員・派遣員を問わずに対応できるシステムになっていますし、監視アプリによってトラブルが可視化されたことで、システム的にどこに問題があるかの判断は以前よりも素早くなりました。

―― トラブルに極めて強いシステムになったということですか。

金山 IPを冗長化し、スイッチャーにも最低限のSDIが来ていることを考えると、従来のSDIより強靭化されていると言えるでしょう。

渡部 今回スイッチャーシステムをハイブリッドで組んだため、万が一トラブルが発生すると、原因が単体のスイッチャーのトラブルなのか、IPのトラブルなのかを見極めることは難しくなりました。そこで、万が一のトラブルでも誰でも対応できるように、トラブルへの対応はSDIの時と変わらない対応となるように工夫しました。

池田 トラブルシューティングの経験値不足は、IPシステム運用における大きな課題の一つです。基本的には、経験値を積むために「避難訓練」的なことをやるのがよいでしょう。

金山 システム導入後、運用が安定していて問題らしい問題が起きていないことが問題と言えるかもしれません。実際、導入から「ウィメンズマラソン」まで、朝の情報番組を使ってバグの洗い出しを含むトレーニング期間を設けましたが、トラブルが全く発生しないという結果に終わりました。

渡部 我々としては、ある程度割り切って考えています。そもそもトラブル発生の確率が低く、まして本番中に起きる可能性はさらに低い。僕ら自体は、いつでもトラブルに合わせて動けるように準備はしていますし、メーカー側の保守対応もある。「何があっても本番は守る」という覚悟があれば、IP関連のトラブルを過度に恐れる必要はないと考えています。

池田 経験からすれば、IPの方がSDIよりもむしろ頑丈です。SDIでは、ケーブルのかみ合わせが合わないだけで映像が乱れます。IPは完全二重化で冗長されているため、実際に映像が乱れるまでになるトラブルが起きる可能性は極めて低いです。

渡部 技術側とすれば「なんとかするから大丈夫」とは伝えてありますし、そもそも制作のスタッフはサブがIP化されていることすらほとんど認識していません。他局から「(制作を)どう説得したのか」と聞かれますが、そもそも教えていませんでした。

池田 それもすごい話ですね(笑)。

ファーウェイのネットワークスイッチ

ファーウェイのネットワークスイッチ

ネットワークスイッチ選択における「将来の拡張性」確保

―― ネットワークスイッチにファーウェイの製品を選択していますが、この考えについて。

渡部 基本スペックとコスト、世界的シェアを含む信頼感に加え、良い意味で「特殊な機能がない」点を評価しています。特殊な機能を持つ他社の製品には利便性の高いものもありますが、それらの活用を前提とすると将来のマルチベンダー化がしづらくなる。回線センターやBサブとの連携を含む将来の拡張性を考えると、選択肢が狭まることはデメリットにもなり得ます。だから、シンプルで価格面、信頼性もあるファーウェイのネットワークスイッチを選択しました。

池田 ファーウェイはオープン性や互換性を重視しています。スイッチベンダーが提供する独自機能は、採用することで利便性の高いシステムを組めるケースもあるでしょうが、囲い込みにつながる面もあります。私はベンダーロックなしで自由度の高いマルチベンダーなシステムを組んでもらうことがIPの大きなメリットの一つと考えているため、選択肢を広く持っていただくという意味でもなるべく標準的な機能で構築することが重要だと考えています。

渡部 次回の更新時にも我々が担当するとは限りませんから。次の担当者が自由に選択できる余地を残すという意味でも、IPの拡張性を保持しておきたいと考えました。

―― なるほど、将来の選択肢を縛らない考え方は大きな発想のチェンジです。本日はありがとうございました。

(聞き手:吉井 勇氏/月刊ニューメディア編集部、構成:高瀬徹朗氏/月刊ニューメディア・ライター)

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