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    先行IP「Bサブ」とオールIP「Nサブ」 連携稼働で「本格IP運用」へ

    朝日放送テレビ

朝日放送テレビ(ABCTV)は2023年4月、オールIPで構成されたニューススタジオサブ(Nサブ)の運用を開始。2020年から運用を開始しているBスタジオサブ(Bサブ)を含め、放送設備の本格的なIP化が進む。
大阪に拠点を置く準キー局として、ABCTVが描く放送の将来像とは何か。技術局の技術戦略部課長兼制作技術部員・宇佐美貴士氏と制作技術部設備担当・小西剛生氏の2人とファーウェイ・ジャパンのメディア事業部部長でIPライブエバンジェリスト・池田俊樹氏に連携稼働するIP設備のポイントと今後の展開について話し合ってもらった。(以下、敬称略)

左から朝日放送テレビ技術局の技術戦略部課長兼制作技術部員・宇佐美貴士氏と制作技術部設備担当・小西剛生氏、IPライブエバンジェリスト・池田俊樹、ファーウェイ・ジャパン 営業担当 渡邉陽司

左から朝日放送テレビ技術局の技術戦略部課長兼制作技術部員・宇佐美貴士氏
制作技術部設備担当・小西剛生氏、
ファーウェイ・ジャパンのIPライブエバンジェリスト・池田俊樹氏と西日本統括本部第1営業部アカウントマネージャー・渡邉陽司氏

先行したIP導入の「Bサブ」

―― BサブのIP化が2020年3月なので、導入検討をそれ以前から開始していたことを考慮すると、日本の放送界ではかなり早めにIP設備を導入したことになります。

ABCTV・宇佐美 当時、将来的な 4K制作にも対応できる制作設備の導入を検討していました。在京キー局のようにBS4Kの業務が直接的にあるわけではないし、4Kを12G-SDIで組むことに技術的な確信が足りなかった時期でした。一方、スタジオ設備の更新を従来どおりの 15年のスパンで考えると、2035年まで4Kに全く対応していない設備で良いのだろうか、という疑問もありました。そこでシステムメーカーと検討を重ねた結果、サブ設備にIPを導入し、その部分で4Kへの対応をする方向へ踏み切りました。

―― 当時のIPへの評価からすると、かなり先進的な判断だったのではないでしょうか。

宇佐美 当時はメーカーの独自方式が主流でしたが、「SMPTE ST 2110」が間に合いそうだということで、この標準規格を選択でき、安定したスタートを切れたと思います。当時、ソニーのニュースリリースでは、「国内初の4K、ST 2110対応のスタジオサブ」とありました。一方で運用開始が 2020年3月、まさに稼働直後に新型コロナによる緊急事態宣言に突入したのです。

―― Bサブのシステム構成を教えてください。

宇佐美 当時は IP対応カメラシステムなども市場に多くなく、スタジオ機材のほとんどはSDIでした。局内の段階的 IP 化のトップバッターとなる設備だったため、稼働時の運用面では無理をせずにSDIをベースにHD制作を続けることにしました。具体的には、従来のSDIを48入力、将来のIP拡張性として 48入力を用意したSDI・IPのハイブリッド運用で、4K制作時は、SDI部分の系統に専用の機器等を極力備え付けることなく、一見もったいないように思いますが、スイッチャーのSDI入力はあえて全く使わずに、フルIPで対応する考え方です。

―― 将来の局内IP化のHD運用における主流となっていくと考えられるインターフェースの役割と、4Kへの拡張性を見越しながら、SDI・IPのハイブリッドによるシステム構成にしたということですか。

宇佐美 言うなれば「割り切った」のです。毎週土曜朝の旅番組『朝だ! 生です旅サラダ』のような全国放送を抱えていることを考えても、従来のSDIが持つ安定性・信頼性は捨て切れない。その折衷案として「将来のHD運用も見据えたIP設備導入」かつ「4Kにも対応できるIP」ということです。

Nサブのオペレーション装置。マルチビューアもIP対応

適切なステップで「Nサブ」をIP化

―― 2023年4月から運用を開始したNサブはオールIP対応ですが、その考えについて。

ABCTV・小西 検討開始は2021年ごろで、すでにBサブIPシステムの安定稼働を確認していましたので、まずは「オールIP化」という方向性で検討を開始しました。社内でIP設備運用をすでに経験していたことは大きな要素だったと思います。

IPライブエバンジェリスト・池田 まさにジャストタイミングだと思います。Bサブの検討時期は 2018~19年で、IP設備を整えるという意味ではメーカー側も含めて明らかに準備不足。その後、コロナ禍を経験することでリモート制作が拡大するとともに、Teams や Zoom の利用が広がったことで映像・音声のディレイに対する経験も進んだことが背景にありました。また、Bサブの検討時期と比べると、IPシステム機器の選択肢は増えていました。

―― ニュース制作においてディレイの問題にどう対応したのですか。

小西 IP設備にしたことで、どの程度のディレイが発生するのか。もちろん、メーカーを含めて細かく検証しました。結果、当時のシステム提案においては 2フレーム(フレ)程度に収まることが確認できたため、許容範囲だと判断しました。

―― 2フレの遅延は許容範囲と誰が考えたのですか。

小西 現場のスタッフ含めて検討した結果です。先ほど、宇佐美から「割り切り」という言葉が出ましたが、IP設備を導入するうえで、2フレ程度の遅延は「割り切らないといけない」と考えます。これを許容できないならばIP導入は不可能でしょう。とはいえ、遅延が少ない方がオペレーションにはいいので、遅延が気になりやすいカメラ信号については、IPシステムでは起こり得るスイッチャー内部での1フレ遅延をなくす工夫はしました。

宇佐美 BサブへのIP導入の段階では、その遅延を気にしたからこそハイブリッドになったとも言えます。Nサブの設備検討では、オールIPの機運が高まっていたこともあります。

―― Bサブのステップを着実に踏んでNサブ設備へとつながったわけですね。

小西 先ほども話しましたが、Bサブがすでに IPシステムを入れていたという実績はかなり大きかった。実際に社内にあるIPシステムで技術検証ができたのですから。ディレイ関連の検証もメーカーの設備を借りて行ったわけではなく、Bサブのシステムを活用したのです。

池田 Bサブを通じてIPシステムに対するノウハウを深め、それを Nサブ構築につなげたという点で理想的だと思います。Bサブ構築の段階では、導入が初となるIP部分に関してはメーカー・ベンダー主導で行われていた設備検討が、Nサブでは逆に ABCTV の要望を受ける形でメーカー・ベンダーが対応するようになり、このスキルアップを支えたのがBサブ運用の経験です。

小西 機器をつないだらこういう設定が必要とか、その設置は不要とかは、実機を使って経験しなければ学べません。こうした検証を自社のBサブでできたのは一つの成果でした。座学や勉強会で学べることから一歩踏み込むことができました。

宇佐美 IP設備の学習が課題と考えると、Bサブで番組制作を行っていないタイミングで設備を活用しながら知見とノウハウを高められたことが有効だったと思います。

池田 ユーザーが学ばなければ製品の良しあしもわかりません。その見極める力をつけたことが、ABCTVの強みではないでしょうか。

【図】ABCTV「Bサブ・Nサブ」システム概要

【図】ABCTV「Bサブ・Nサブ」システム概要

2サブのIP化から目指す次のステップ

―― Nサブの構成の説明をお願いします【図】。

小西 軸となるブロードキャストコントローラにソニーのIPライブシステムマネージャー(LSM)を配置し、ネットワークスイッチはファーウェイ、IPマルチビューワは芙蓉ビデオエージェンシーを採用。EMG系・映像効果列などの部分でIPスイッチャーのパナソニックKAIROSを採用し、運用面の拡充を図りました。

―― 基本的にはソニーの提案を軸とした構成ですか。

小西 Bサブで安定している実績がありますので、ネットワーク周りはBサブをベースとしたソニーの提案を採用しました。つながるIPデバイスは基本こちらで選定しています。

―― 重要なネットワークスイッチ選定の考えは。

小西 ソニーから機能面と稼働実績からファーウェイを提案していただき、コスト面や2つ目のIPサブでマルチベンダーにするリスクなどを含めて判断しました。

―― NサブのオールIPについて、社内的な位置づけ、方向性はどういう考えですか。

宇佐美 Bサブに続くNサブのIP設備の導入を「フェーズ0」と考えています。Nサブ稼働の直前の段階で、次期回線システムのIP化が見えてきたこともあり、それまではサブ内SGにてマスター分配されたBB(ブラックバースト信号)から生成される別個のPTPによる同期でしたが、今後は両サブが上位から分配されたPTPからサブ内でBBを生成する構成へ進化させました。この次の「フェーズ1」では同じPTPで駆動しているB・Nサブの間をファーウェイのスパインスイッチでつなぎ、大規模な信号のやり取りを可能にします。これによってCCUを制作サブで6台しか設備していない場合でも、それ以上の台数が必要なケースに100Gのネットワークで対応できるようになり、機器の配置換えや複数本のケーブル脱着などの作業から解放されます。テロップなどの信号も従来のパッチ作業なしで、NWスイッチを介して持ってこられます。制御系も、将来的には運用管理スケジュールなどもPCなどを利用した形で簡単にできるようになります。そこまでの運用が現時点でできているわけではないのですが、その準備が整ったのが現在のフェーズ1ということです。

小西 「とりあえずできることをどんどんやってみよう」という考え方です。実際に検証しながらIPのメリットを自分たちで見つけ、それを全員で共有していく発想です。今後、IP運用で制作設備の方向性が大きく変わっていく中で、ステップを踏んで進めていこうということです。

宇佐美 Bサブ、NサブのIP化までは「SDIの代わりになる新しいテクノロジーを入れてみた」という段階で、これからは局内全体でIP化のメリットを広げ、増やしていくフェーズになります。一つのスタジオサブをIP化する段階で迷っている放送局もあると聞きますが、導入した時期から考えて、その一歩先にいると捉え、メーカーとともに先行した経験がもたらすメリットを享受しつつ、効率的で柔軟で、スリム化してもこれまでよりも充実している放送設備を構築していきたいと見据えています。

ネットワークスイッチでファーウェイが活躍

Bサブ、Nサブのネットワークスイッチでファーウェイが活躍

将来に向けた展望と課題

―― 現場オペレーションの対応はどうですか。

小西 ニュースサブの運用としては今までどおりです。制作がメリットを得るのは、ほかのサブとつながり、サブとスタジオ運用が回しやすくなった後だと期待しています。現段階では、コスト面や設備効率化、スタッフの動きを含め、制作よりも経営面でのメリットが大きいかもしれません。

宇佐美 ファイルベース化がすでに進んできた中、映像・音声のフォーマットが変わっているので、制作側の運用面で「IPで変わった」と感じることはほとんどありません。

池田 少し前まで、通信ネットワークを使って映像を送ること自体が「あり得ない」状況でしたが、現在では信用度も含めて大きく変化してきました。放送局の心臓部であるニュースサブがオールIP化されたというのは、そうした信頼感の変化を端的に示していると思います。中長期で考えればIP化の選択しかないという状況ですが、その一歩を踏み出せない放送局が多い中で、いち早くそれに取り組まれたABCTVはトップランナーです。Bサブ構築で一歩を踏み出していなければ、その先を見据えることもできなかったわけで、いち早く取り組んでいたからこそ、将来を見越した「堅実な」判断ができていると思います。

―― 今後に向けた展望を。

宇佐美 今後のIPシステム運用を考えるうえで懸念されるのは、設備間をつなぐ回線が100Gの限られた帯域での運用です。SDIでは、本数が足りなければ、そのオーバーした信号が送れないだけですが、オーバーした途端、すべてが破綻するのがIPです。ですから、システム上の工夫も必要ですし、ネットワーク側での放送局の運用として有効な監視手法など、ファーウェイにも考えていただきたいと思います。

池田 Inter BEE「IP PAVILION」においても監視・可視化は大きなテーマです。一つのシステムはそのベンダーで監視していれば十分でしたが、マルチベンダーによるシステム構築なので、個々のシステムを飛び越えた全体監視の必要性が高まっています。ご指摘のとおりです。

宇佐美 次のネットワークスイッチのリプレースの段階では400Gになっているかもしれませんし、圧縮技術がさらに高まって100Gの回線でもより多くの素材がやり取りできるかもしれません。あとは非圧縮にどこまでこだわるか、もあります。

池田 メーカー側として注意しなければならないのは、手段と目的をはき違えないことだと考えています。我々が売りたい製品でも、ユーザーの目的と違っていれば不要です。将来はIPで構築する方が効率的なのは間違いありませんが、それはあくまで手段です。宇佐美さんが求める監視・可視化でも製品はありますが、ユーザー側が何をコントロールしたいかを十分に伺い、ユーザー自身が選択できるよう提供していくことだと捉えています。IPには絶対これが必要という押し付けではなく、ユーザーが求める製品を提供していくことをあくまでも考えていきます。

―― 連携したIP化のメリットと発展性が浮き彫りになりました。ありがとうございます。

(聞き手:吉井 勇氏/月刊ニューメディア編集部、構成:高瀬徹朗氏/月刊ニューメディア・ライター)

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